弱ったのか道路に休むルリタテハ
「はだしのゲン」1~10巻まで一気読みしました。
愛と暴力の波乱に富んだゲンの半生を追いかけていたらあっという間でした。
一部の学校図書室でこの作品が自由閲覧禁止になった理由もわかりやすいです。
「わしら学校も先生も選ぶ権利があるわい」
「嫌な学校や先生を押し付けられるのはたまらんのう」
「だいたいこんとなおもしろくもないわからん教科書でなんで我慢して勉強せんといけんのね。大人が勝手に決めつけて」
ゲンが心から敬愛する先生はレッドパージ(赤狩り)された太田先生だけ。
「わしゃ先生の話を聞いとった方がよっぽど楽しくて勉強になるわい」
こんなセリフを見て学校教育を反省もせず、短絡的に閲覧禁止にする教育委員会と学校。自ら墓穴を掘ってますね。
広島平和都市建設のために、戦後、市民が居住中にも関わらずバラックが壊されたというのも初めて知りました。悪法でも成立するとたちまちバラックは不法建築物となり、強制撤去となるのです。
「ずる賢くて悪いやつがのさばっとる世の中はたたきつぶさんといけんわい。そういうやつらが戦争をしかけて甘い汁を吸っとるんじゃけえ」
朝鮮戦争で戦争特需により潤ったのは日本でした。
被爆者・光子は女性の責任も問います。
「国防婦人会や愛国婦人会も自分の夫や息子に、国のため天皇のために立派に死んで来いと言った。女にも戦争を起こした責任はあるんだ。日本中の女が身体を張って反対したら男の思うようにできず戦争はふせげたはずだ」
「あの貧相なつらをしたじいさんの天皇今上裕仁を神様としてありがたがり、でたらめの皇国史観を信じ切った女も大バカなんよ」
「原爆で苦しみ抜いた弱い者を利用してのうのうと生きとるヤクザも許せんよ」
戦後のどさくさに紛れて土地を奪ったり、盗品を流して闇市で荒稼ぎをしたり、戦争孤児を誘拐して利用、搾取したり、ヤクザは莫大な力をつけました。そこから軍資金を得て、なんと議員になる者もいました。広島にヤクザが多い理由がわかります。
「殺人罪で永久に刑務所に入らんといけん奴はこの日本にはいっぱいいっぱいおるよ」
「まずは最高の殺人者天皇じゃ。あいつの戦争命令でどれだけ多くの日本人、アジア諸国の人間が殺されたか。命令ばっかりして自分はいつも安全圏にいてのうのうと生き残っとる東条内閣の大臣や役人どもも大殺人者じゃ。戦えば必ず勝つとうぬぼれて戦争を始めた陸海軍のバカな軍人の幹部どもも大殺人者じゃ」(被爆者・勝子)
戦争を終わらせたのは天皇でも軍でもなく、被爆の犠牲となった37万人の広島市民でした。
「日本人は広島、長崎の犠牲に感謝せんといけんんわい。生き残れて安心して眠れる戦争のない世の中にしたんじゃけえ。いや、世界中の国々も広島、長崎に感謝せんといけんわい。核兵器の恐ろしさを知れたじゃけえ。地球がほろびる核戦争を防いでおるんじゃけえ」
弟となった隆太がゲンに言います。
「おまえは原爆の恐ろしさを証言できる大事な見本じゃ。これからの地球上の人間を救える証言者じゃ。天皇よりよっぽど役に立つ偉い人間じゃ」
原爆だけでなく社会の、人間の恐ろしさをこんなにくっきりと描写してくれた漫画が他にあるでしょうか。ワクチン接種しない人、マスクをしない人が「非国民」扱いされる今、あらためて、ゲンが生きた世界は終わってないんだなと思います。