ロベール・ブレッソン監督の古い映画がかかっているので、観に行きました。1964年の「バルタザール どこへ行く」です。
生まれたばかりのロバをもらい、可愛がる少女マリー。ロバにバルタザールと名付け、マリーは世話を焼きます。それに嫉妬した村の愚連隊ジェラールに虐待されるバルタザール。なぜかそれを見て見ぬふりをするマリー。
家の都合でバルタザールを手放すことになっても、特に感情を出さないマリー。この娘の精神状態は大丈夫か?と心配になってきます。マリーだけでなく、父親も母親も村人もなんか無表情でおかしい。牧歌的な村なのに、全編不穏な雰囲気が漂っています。
バルタザールは鍛冶屋で酷使されてましたが逃げ出し、マリーと再会するも再びジェラールのが虐待が始まり・・・。
数奇な運命をたどるロバの一生がマリーの転落(?)の人生と重なります。ドストエフスキーの「白痴」の一部にヒントを得て作られたそうですが、なんとも重苦しい作品でした。
環境に翻弄されるロバの生は、マリーだけでなく、村人、ひいては一般の人間に共通することが読み取れるのではないか。時代や居住地や家族、周囲の人間、職場などに我々人間も翻弄されるわけですから。ロバの哀しくも無表情が村人たちの生気のない無表情に妙に重なって見えました。
ロバは抗うこともせず「愚鈍」の象徴でもあります。マリーもジェラールの暴力に当初は抵抗するも諦めてしまいます。ロバもマリーも逃げ出すことはできますが、当て所なく彷徨うだけ。熟考なく環境に即反応するだけの愚かさについて自戒させられる映画でした。
ブレッソンの作品、怖いです。
主演のアンヌ・ヴィアゼムスキーはゴダールと結婚・離婚し、その後作家・監督になったそうです。