民族学者、伊波普猷(いはふゆう)によると、琉球弧だけではないかもしれませんが、昔はカニバリズム(食人)が行われていたそうです。
死人が出ると親類縁者が集まり、その肉を食べました。後世になりその風習は人肉の代わりに豚肉を食べるようになりました。今日でも近い親類を「真肉親類」(マッシシオエカ)、遠い親類を「脂肪親類」(プトープトーオエカ)と呼ぶそうです。
この呼称の違いは、亡くなった人との近しさの度合いに応じて、切り取る肉の部分が定められたことによるものです。
葬儀に行くことを「肉を噛みにいく」「骨をしゃぶる」などと表現していて、死者が出ると「では股が食べられるね」と話していたという記録もあるそうです。
カニバリズムと聞くと恐ろしいですが、あくまで、亡くなった愛する人の死を悼んでその人を自分の一部にするということらしいです。「珊瑚礁の思考」著者の喜山荘一氏は、この習俗に他者の霊力を自分の中に再生させる霊力思考が働いているのを見ることができるといいます。この「霊力の転移」は琉球弧の習俗を理解するうえでの重要なキーワードなのです。
カニバリズムは他人事ではありません。
フォイエルバッハによれば、赤ちゃんが母乳を飲むのもカニバリズム。子どもは母の血、母の本質を自分の中に吸い上げているといいます。
母乳は母の血。それを飲むカニバリズムなしには我々は生きてこれなかったわけですね。なんか凄いことに気づかされました。