神の島 琉球RYUKYU

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「ハジチ 蝶人へのメタモルフォーゼ」

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喜山荘一さんのご専門は考古学でなくマーケティングなのも面白い


ハジチって何?昔、沖縄で女性たちが手や腕に彫っていた伝統的な刺青です。近年、恥ずかしい習俗として隠されるようになり、もはやハジチを行う人はいないようです。

模様が特徴的で素敵なので、ハジチの起源に興味をもっていたところ、ジュンク堂那覇店で喜山荘一著「ハジチ 蝶人へのメタモルフォーゼ」出版記念トークイベントがありました。

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蛹(さなぎ)を模った遺跡図


なんと、凄いことがわかりました!ハジチはただのファッション刺青(いれずみ)ではなく、植物人としての幼い人間が蝶人へ脱皮できるよう祈りをこめた儀式だったのです。

喜山さんは古代遺跡の貝塚を従来のゴミ捨て場という認識ではなく、散らばった貝や骨が星座のように意味のある模様、意味があることを発見しました。考古学者でもなしえなかった快挙です!

遺跡の模様は身近な自然物(虫や花や貝など)としてトーテム(祖先・生命の源)を表していたのです。たとえば、具志川遺跡は蛹(さなぎ)の形を表しています。死者は蝶になると考えられていたようです。実際、人間の頭には蝶骨という蝶の形をした骨があるそうです。蛹の模様を施した土器や蝶型骨器も発見されています。

 

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蝶型骨器と蛹模様の土器


虫は葉を食べて蛹になり、蝶になる。先史人にとっては虫による葉の「食痕」も重要なメッセージで、葉は虫に食べられることによって、虫の一部になり、蝶になると解釈していたようなのです。植物人が蝶人になるため、自らを針で刻むハジチは「食痕」というシンボルでもあったのですね。少女時代からハジチを少しずつ入れ始め、結婚や還暦を機会に増やしていったそうです。

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虫が変態するように、人もメタモルフォーゼするとされました

ハジチは約5000~3000年前から行われ、明治時代になって廃止されたそうです。同時に、古代人の宗教を超えた壮大な宇宙観は失われ、伝承もされなくなりました。ハジチも芸術的な模様を描く遺跡群も世界遺産に匹敵すると思うのですが、完全な形で確認することができるのはもはや具志川遺跡だけ。他の遺跡は出土品をチェックして終了。考古学者は遺跡の形からメッセージを読み解くこともしていないそうです。

 

先史人を現代人の投影で見ては何も見えてこない、と喜山さんは言います。確かに、我々にはゴミ捨て場や工場は必要だけど、先史時代にゴミ捨て場や工場という概念は必要だったか?

もしかすると、いや、きっと少なくとも精神的には現代よりかなり豊かな社会だったのではないか。ハジチという凄い伝統を失った我々こそ、恥じるべきなのでしょう。

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